弁護士を社外取締役に選任するには?弁護士を選ぶ基準や選任時の注意点を徹底解説

2024.02.21 2024.02.22
弁護士を社外取締役に選任するには?弁護士を選ぶ基準や選任時の注意点を徹底解説

INTRODUCTION

令和3年3月に会社法の改正が行われ、一定の会社において社外取締役の設置が義務化されました。社内の人間関係などのしがらみに影響を受けない客観的な立場の社外取締役には、コーポレートガバナンス体制の構築を通じて不祥事の予防や企業価値の向上に貢献することが期待されています。

社外取締役には経営経験者をはじめとして多様な経歴を持つ人材が登用されていますが、法令遵守や法的リスクの回避、対外的な信用性の確保など多数の観点から弁護士が選任されるケースも増えています。とはいえ、実際に弁護士を社外取締役に迎え入れるにはどうしたらよいのか分からない経営者も多いのではないでしょうか。

この記事では弁護士を社外取締役に選任するメリットを確認しながら、弁護士を選ぶ際のポイントや注意点、選任する具体的な方法について解説します。

社外取締役が必要とされている背景

令和33月に改正会社法が施行し(令和元年12月成立)、金融商品取引法で有価証券報告書の提出義務を有する監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)は、社外取締役の設置が義務づけられました(会社法第327条の2)。これにより、社外取締役のニーズがいっそう高まったことになります。

今回の改正にはどのような経緯や背景があったのでしょうか?以下で社外取締役の定義や役割とあわせて解説します。

社外取締役とは

社外取締役とは、その会社で業務経験を持たない取締役のことです。社外取締役の役割は経営に関する助言と経営の監督を通じて、会社の成長と企業価値の向上に貢献することにあります。会社の経営に関する大きな意思決定や経営の監督という点では社内取締役も同様の役割を果たしますが、社外取締役との大きな違いは「客観性」です。 

社外取締役は組織や人間関係等のしがらみに左右されることなく、会社から独立した客観的な立場で経営に関する助言を行い、ほかの取締役の監督や経営者と株主との利益相反の監督などを行うことができます。

具体的には、

  • 取締役会への参加
  • コンプライアンス経営や不祥事対応
  • 常勤取締役の監視
  • 経営に関するアドバイス
  • 株主と経営陣との橋渡し

といった活動を行います。

社外取締役設置義務化の背景

令和3年施行の改正会社法は、コーポレートガバナンスをより強化することを重要な目的とするものです。コーポレートガバナンスとは企業統治を意味する言葉で、企業不祥事の防止と長期的な企業価値の向上を目的として、経営を監視・監督する仕組みのことです。

従来、日本企業の取締役は社内で出世して選任されるケースが大半で、社外から取締役を迎え入れることはあまりありませんでした。しかし近年、企業の不祥事が相次いだことから「コーポレートガバナンスを強化するべき」との声が高まり、会社法の改正が検討されるようになりました。

平成275月に施行された改正会社法では社外取締役を置いていない場合の理由開示を求めるのにとどまるものでしたが、令和元年7月には東京証券取引所における社外取締役の選任率は全上場会社で約98.4%となり、令和元年の改正法成立前に上場会社における社外取締役の選任はおおむね浸透したと言えます。

ではなぜ今回、改めて社外取締役の設置が義務化されたのでしょうか?会社法の立法趣旨については「わが国の資本市場が信頼される環境を整備し、上場会社等については、社外取締役による監督が保証されているというメッセージを内外に発信するため」とされています。

参考:経済産業省|社外取締役の在り方に関する実務指針 P13

社外取締役の候補者となり得る人とは

社外取締役にはどんな人材が選任されているのでしょうか?社外取締役の候補者となり得る人材像について確認します。

社外取締役のバックグラウンド

現在、社外取締役に就任している人のバックグラウンドは以下のように多様です。

  • 会社の経営者、経営者OB
  • 弁護士
  • 公認会計士・税理士
  • 学者
  • 金融機関 
  • コンサルタント
  • 著名人 など

多様な視点や価値観から会社経営にイノベーションをもたらし、かつ監督機能の実行性を発揮するためには、さまざまなバックグラウンドを持つ人を選任することが望ましいと考えられています。

全会社の約1割は弁護士を選任している

経済産業省の「社外取締役の現状について」によると、全会社の社外取締役のうち弁護士は11.8%を占めています。もっとも多いのは経営経験者の46.0%ですが、弁護士はそれに次ぐ割合となっています。弁護士は職業としての独立性が高く、公共の利益に資するための国家資格が与えられていることから、社外取締役としての適性が高いと考えられています。
参考:経済産業省|社外取締役の現状についてP3

弁護士を社外取締役に選任するメリット

弁護士を社外取締役に選任することにはどんなメリットがあるのでしょうか?

ガバナンスを強化できる

令和33月の会社法改正はコーポレートガバナンスを重視し、社外取締役などによるチェック機能を働かせようとするものです。コンプライアンス体制の構築や業務執行の適正を監督する観点から、企業法務に関する専門的な知識と経験を備えた弁護士を選任することは大きな意味があります

弁護士は日頃から顧問弁護士業務を通じて多数の企業のガバナンス強化を支援しており、幅広い業種のさまざまな事案の解決に尽力しています。その経験を通じて得た専門的知見を活かし、コンプライアンス経営の実現に寄与できます。

利益相反を回避して株主を安心させられる

社外取締役には銀行や取引先の役員などが候補者となる場合がありますが、このような候補者が選任されると適正な取引ができず、一般株主の利益を害することになってしまう恐れがあります。

弁護士は企業と利害関係にない第三者の立場から取締役の監督・監査ができるため、利益相反を回避できます。また外部から法的に監視し、法令遵守を浸透させることによってガバナンスが強化された企業であることを対外的にアピールすれば、株主の信用・安心につながるでしょう。

法的リスクを未然に防止できる

法的リスクの未然防止はまさに弁護士が得意とするところです。とりわけ取締役や管理職などによる内部の違法行為は会社に重大な損失をもたらすおそれがありますが、弁護士が入ることで社内にリーガルチェックが行き届くようになり、違法行為の発覚や内部摘発につながります。

有事の際にも、弁護士が公平かつ中立的な検討を行うことで、被害の最小化につなげることができます。弁護士は裁判や交渉の場における紛争解決の専門家として、問題およびリスクを発見する能力に長けているため、有事の際の迅速な対応に期待できるでしょう。

人材の多様性をアピールできる

社外取締役でもっとも多いのは経営経験者です。先の経済産業省の調査では全会社のうち46.0%が、指名委員会等設置会社にいたっては63.3%が経営経験者でした。
参考:経済産業省|社外取締役の現状についてP3

また日本企業では取締役の多様性(ジェンダーや国際性等)を確保することが課題となっており、機関投資家からの要請も強まっています。そうした中、弁護士を取締役に選任することで社外に向けて人材の多様性をアピールすることができます。

女性社外取締役を選任するケースが増えている

特に近年は女性を社外取締役に選任するケースが増えています。女性を社外取締役に迎えることで人材の多様性や女性活躍推進の取り組みをアピールできるとともに、海外の機関投資家からの評価も高まる傾向があることなどが影響しています。

女性弁護士が社外役員に就任するケースも多くあります。女性弁護士の場合は多様性の確保に加えてコーポレートガバナンスおよびコンプライアンス経営の観点からも選任するメリットが大きいため、人気が高まっています

なお、日弁連のHPでは社外役員に就任している女性弁護士9名に対するインタビューを掲載しています。女性弁護士の会社との関わり方や考え方、就任の経緯などを知ることができますので参考にしてみてはいかがでしょうか。
参考:日弁連|社外役員に就任している女性弁護士インタビュー

社外取締役にはどんな弁護士を選任すればよいか

弁護士を社外取締役に選任する場合、どんな弁護士でもよいわけではありません。以下のような要素を備えた弁護士を選任することで社外取締役としての役割を果たしてもらえるでしょう。

自社の事業・業界への理解が深い

社外取締役に求める役割が経営の監督や助言である以上、社外取締役には自社の事業や業界への理解が深い弁護士を選任するのが望ましくあります。

これにより、自社の取締役に不足している知見を補い、自社のビジネスモデルの問題点や成長に必要な要素は何かを掘り起こしてアドバイスしてもらえます。

たとえばAIを活用した事業への進出を考えている会社であれば、AIビジネスに関する知見が豊富で法的リスクを理解した弁護士を選任することが考えられるでしょう。

経営に関する経験が豊富

社外取締役も経営陣の一角である以上、経営に関する経験や知識が必要です。経営に関する経験が不足している弁護士の場合、会社の経営に対して的確な助言をすることが難しく、法令遵守の観点から保守的な提案・助言ばかりしがちになります。

これでは自社の成長を加速させることはできません。経営に関する経験が豊富で、経営陣とビジネスを踏まえた建設的な議論ができる弁護士を選任することが望ましいでしょう。

自社の成長に必要な提案・助言ができる

コーポレートガバナンスは会社の不祥事の防止という観点だけでなく、企業価値の向上という観点も含みます。そのためには適切なリスクテイクを後押しするための「攻め」のガバナンス体制の強化が必要です。

したがって社外取締役となる弁護士には、法令遵守の観点からときには適切にブレーキをかけつつも、一歩踏み込んで自社の成長に必要な提案・助言ができる人材であることが求められます

社外取締役の在り方に関する実務指針でも、社外取締役の心得について「業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきである」と示されています。
参考:経済産業省|社外取締役の在り方に関する実務指針 P21

会社としては、自社にとって耳が痛い指摘や助言があっても、それこそが社外取締役を選任する意義だと理解することが必要です。

弁護士を社外取締役に選任する際の注意点

弁護士を社外取締役として選任する場合には次の点に注意が必要です。

できるだけ早く選任すること

自社に合う社外取締役が簡単に見つかるわけではありません。令和3年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂や近年における上場準備企業の増加などを受け、人材の争奪戦が激化しています。人気の人材はもともと市場にいないのに加え、複数社の社外取締役を兼任していて新たな企業での就任が難しい場合も多くあります。

そのためできるだけ早く選任の準備を始め、適切な人材が見つかったら素早いアクションを起こすことが大切です。

就任前からコミュニケーションをとること

社外取締役として選任する前から、候補者の弁護士とコミュニケーションをとることも必要です。単発の依頼などを通じて自社への適性を把握することができるほか、自社の状況を理解したうえで就任してもらったほうがミスマッチを回避でき、問題の早期発見にもつながります。

顧問弁護士を社外取締役に起用したい場合の留意点

社外取締役に弁護士を迎え入れたい場合、自社の顧問弁護士の起用を検討する場合もあるかと思われます。社外取締役と弁護士の兼業については可能ですし、実務上は就任の事例もあるようです。

しかし自社の顧問弁護士を社外取締役に選任できるか否か、法的リスクを排除できるのかについてはさまざまな議論がなされているところであり、明確な結論は出ていません。留意点としては、社外取締役への報酬額等を考慮して、顧問弁護士が会社に対して従属的な立場になっていないかを慎重に検討する必要があります

弁護士を社外取締役に選任するには?

弁護士を社外取締役として選任したい場合、どのようにして人材を確保すればよいのでしょうか?

コネクションを利用して紹介を受ける

まずは自社のコネクションを利用して紹介してもらう方法が考えられるでしょう。社外取締役として弁護士を選任する理由と求める人材像を明確にしたうえで、紹介を受けたい旨を相談すれば、適切な人材を紹介してもらえる可能性があります。

たとえば経営者や役員の知人弁護士や、経営者同士のネットワークに参加している場合にはほかの経営者の知人弁護士を選任するといったケースが考えられます。ほかには取引のある転職エージェントで、社外取締役の求人を持っているエージェントであれば能動的に依頼することで紹介を受けられる場合もあります。

その弁護士には就任してもらえない場合でも、信頼できて社外取締役にふさわしいほかの弁護士を紹介してもらえる可能性もあるでしょう。

コネクションを利用した場合、知人などの話を通じてその弁護士の人となりや経歴などが分かるため、自社への適性も含めて選任するべきかを判断しやすい点がメリットです。一方で、社外取締役の要件・基準を満たす人材をコネクションのみで探すのは難しく、就任後に能力のミスマッチが起きる可能性はあります

顧問弁護士へオファーする[非推奨]

顧問弁護士に対して会社側からオファーする方法も考えられます。すでに会社の実情を把握している顧問弁護士であれば、実情を踏まえたうえでの問題点の洗い出しや対応策の検討ができます。

ただし前述のように顧問弁護士を社外取締役に選任するには留意点があるため、選任のメリットとリスクを比較したうえでオファーを検討する必要があります。

現在のところ、顧問弁護士を社外取締役に選任することの法的リスクを完全に排除することはできません。そのため少しでもリスクを残したくない場合には使えない方法になります。

社外取締役のマッチングサイトを利用する

社外取締役のマッチングサイトとは、社外取締役の候補者を探している会社と、社外取締役になりたい人材とをマッチングさせるサービスのことです。マッチングサイトの利用には、自社が求める人材をスピーディーに探せるメリットがあります。また自社にコネクションがない場合でも能動的に人材を探すことができます。

現在、多数のマッチングサイトが存在しますが、特におすすめのサイトを以下に紹介します。

社外取締役マッチングサービスおすすめ3社

ExE(エグゼ)|98%が弁護士有資格者の登録

EXE資料

ExE(エグゼ)は、社外役員の登用を検討している会社に対し、社外取締役・社外監査役の経験がある弁護士または公認会計士を紹介するマッチングサービスです。

ExE(エグゼ)の運営会社である株式会社 アシロはもともと弁護士・法務人材の転職エージェントを運営している会社なので、法律事務所や企業の法務部に弁護士を紹介してきた実績があります。

ExE(エグゼ)に登録している候補者のうち、98%が弁護士または公認会計士資格の保有者なので、社外取締役に弁護士を選任したい場合に最適なサービスと言えるでしょう。

また登録者の20%が女性役員経験者です。人材の多様性の確保から女性社外取締役を求めている会社は多いですが、コーポレートガバナンスの知識が豊富で経営経験のある女性は少なく、採用は困難を極めます。

ExE(エグゼ)を利用すれば、転職エージェントで築いたネットワークを活かした、適切な女性人材を紹介してもらえます。

公式サイト:https://exe-pro.jp/
資料請求は『こちら

KENJINS

KENJINS

KENJINSは日本最大級の顧問契約マッチングサイトです。社外取締役などの社外役員をはじめ、コンサルタントや企業研修・コーチング、講演などさまざまな顧問のマッチングを実現させています。

KENJINSはいわゆるダイレクトリクルーティングサービスを提供しています。顧問を求める会社と登録者の間にエージェントが介入することなく、直接やり取りしながら条件などを決定するサービスです。会社が顧問募集情報を掲載すると登録顧問から応募が入るので、管理画面のメッセージ機能を使って応募者と直接対話ができる仕組みとなっています。

従来の顧問紹介会社と異なり中間マージンをカットできるため、経営課題を抱えている会社側は適正価格での顧問の利用が叶います。また双方が直接やり取りすることで採用後のミスマッチを回避することができます。

参考:KENJINS

HiPRO biz

Hipro biz

Hipro bizは企業の経営課題を、経験豊富なエグゼクティブや高い専門性を持つ専門家、人脈などによって解決する新しい形の経営支援サービスです。転職支援サイトdodaを展開するパーソルキャリア 株式会社が運営しています。

Hipro bizではさまざまな業界・業種の経験者が候補者となり、法務/ガバナンス分野の人材も登録しています。社外取締役・社外監査役などの独立役員紹介サービスも行っており、候補者数は20204月現在で19,000名以上と非常に多いのが特徴です。

多様なキャリアの候補者がいるため、自社にマッチした人材を紹介してもらえる可能性があります。
参考:https://biz.hipro-job.jp/

まとめ

ガバナンス強化の要請を踏まえれば、弁護士を社外取締役に選任することには大きな意義があります。ただし市場では社外取締役の争奪戦が始まっており、適切な人材を自社で探しだして確保することは非常に難しくなっています。

弁護士の選任においても例外ではありません。そのため弁護士を社外取締役に選任したいとお考えの場合は、社外取締役のマッチングサイトの利用も検討してみましょう。

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