INTRODUCTION
非常勤監査役は、職務に従事する時間が短い一方で、常勤監査役と同等の監査を行わなければなりません。そのため、非常勤監査役に就任する人には、常勤監査役以上に高い監査能力が要求されます。弁護士や公認会計士は、監査経験や、監査に必要な知識に長けているケースが多いです。非常勤監査役の新規選任を検討する際には、弁護士や公認会計士を候補者としてご検討ください。
今回は、株式会社の非常勤監査役に求められる役割につき、常勤監査役との違いや、適任者の資質などと併せて解説します。
目次
非常勤監査役とは?
非常勤監査役とは、その名のとおり、常勤ではない監査役を意味します。常勤監査役と非常勤監査役の間では、権限や責任の範囲に違いはあるのでしょうか。
また、「社内監査役」「社外監査役」という区別もあるところですが、常勤・非常勤の区別とはどのような関係があるのでしょうか。まずは、監査役の種類を踏まえて、非常勤監査役とは何なのかを理解しておきましょう。
常勤監査役と非常勤監査役の違い
常勤監査役と非常勤監査役の違いは、文字どおり「常勤」であるかどうかの点にあります。
具体的には、
- 他の常勤職との兼任が認められるかどうか
- 勤務時間や日数
の2点が、常勤監査役と非常勤監査役の違いです。「常勤」とは、他に常勤の仕事がなく、営業時間中は原則としてその会社の監査役としての職務に専念することを意味します。
したがって常勤監査役は、他の会社の常勤役員に就任したり、常勤従業員として他の会社で働いたりすることはできません。また常勤監査役は、通常の従業員などと同様に出勤して(テレワークであればオンライン常駐などを通じて)、常時監査役としての職務を行います。
これに対して非常勤監査役は、「常勤」ではないため、他の会社の役員や従業員を兼務することも認められます。非常勤監査役が会社に出勤するのは、取締役会や監査役会への出席機会が中心であり、監査役として常駐しているわけではありません。
常勤監査役と非常勤監査役の権限・責任は同じ
その一方で、監査役としての権限や責任は、常勤監査役と非常勤監査役との間で差が設けられていません。つまり非常勤監査役は、会社のために割く時間が短い中でも、常勤監査役と同等の責任を果たす必要があるのです。そのため非常勤監査役には、監査に関する高度な経験と能力が要求されます。
社内監査役・社外監査役は常勤・非常勤いずれも可
常勤監査役・非常勤監査役の区別のほかに、社内監査役・社外監査役という区別の仕方も存在します。
社外監査役とは、以下の要件をすべて満たす監査役のことです(会社法2条16号)。
十六 社外監査役 株式会社の監査役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員。ロにおいて同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ロ その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
引用元:会社法2条16号
社外監査役に該当しない監査役は、社内監査役となります。監査役会設置会社では、監査役の過半数を社外監査役としなければなりません(会社法335条2項)。
(監査役の資格等)
第三百三十五条 第三百三十一条第一項及び第二項並びに第三百三十一条の二の規定は、監査役について準用する。
2 監査役は、株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若しくは執行役を兼ねることができない。
3 監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない。
<社外監査役の要件> |
①就任前の10年間、以下のいずれにも該当したことがない ・会社の取締役、会計参与、使用人 ・子会社の取締役、会計参与、使用人 ②就任前10年以内に会社または子会社の監査役だったことがある場合は、監査役への就任前の10年間、以下のいずれにも該当したことがない ・会社の取締役、会計参与、使用人 ・子会社の取締役、会計参与、使用人 ③親会社等の取締役、会計参与、使用人でない ④親会社等の子会社等の業務執行取締役、執行役、使用人でない ⑤会社の取締役や重要な使用人などの配偶者、二親等内の親族でない |
社内監査役と社外監査役の区別は、常勤監査役・非常勤監査役の区別とは全く関係がありません。したがって、下記のいずれのパターンもあり得ます。
- 常勤の社内監査役
- 非常勤の社内監査役
- 常勤の社外監査役
- 非常勤の社外監査役
監査役の常勤・非常勤に関する会社法上のルール
監査役の常勤・非常勤については、会社法において一定のルールが定められています。法律上、監査役の常勤・非常勤の区別に注意する必要があるのは、監査役会設置会社のみです。
監査役会設置会社では、1名以上の常勤監査役が必要
監査役会設置会社では、監査役の中から、常勤の監査役を1名以上選定しなければなりません(会社法390条3項)。特に公開会社かつ大会社の場合には、監査役会の設置が義務付けられているため、常勤監査役の設置も必須となります。
監査役会を設置するような規模の大きい会社では、監査に関する業務も多くなることが想定されるため、常勤者の設置が義務化されているのです。
常勤監査役は、監査役会が監査役の中から選任を決議する
監査役会設置会社における常勤監査役の選定は、監査役会の決議によって行います(会社法390条2項2号)。
監査役会の決議には、監査役の過半数の賛成が必要です(会社法393条1項)。
監査役会設置会社でなければ、監査役全員が非常勤も可
監査役会設置会社でない会社の場合、監査役の常勤・非常勤について、法律上の制限は設けられていません。したがって、監査役会設置会社でない会社においては、監査役の全員を非常勤とすることも可能です。
非常勤監査役に求められる役割とは?
非常勤監査役には、常勤監査役と同様に、監査役としての責務をフルに果たすことが求められます。そのうえで、複数の会社で監査を行ってきた経験を活かして、監査の視点の多様化に貢献できることが望ましいでしょう。
監査役としての権限内容
会社法上、監査役には以下の権限および義務が与えられています。
<監査役の権限> |
・取締役、会計参与、使用人に対する事業報告の徴求(会社法381条2項) ・会社の業務、財産の調査(会社法381条2項) ・子会社に対する事業報告の徴求(会社法381条3項) ・子会社の業務、財産の調査(会社法381条3項) ・取締役による目的外行為、法令や定款への違反行為の差止請求(会社法385条1項) ・取締役を相手方とする訴訟において、会社を代表する(会社法386条1項、2項) |
<監査役の義務> |
・取締役による不正行為、社内における法令や定款への違反行為等に関する、取締役(会)への報告(会社法382条) ・取締役会への出席(会社法383条1項) ・法令や定款への違反行為等に関する株主総会への報告(会社法384条) |
常勤監査役と非常勤監査役との間で、上記の権限・義務に差はありません。したがって非常勤監査役には、与えられた権限を適切に行使して、常勤監査役と同等の監査を行うことが求められます。
業界横断的な知見を、監査役会にプラスできると望ましい
非常勤監査役の大きな特徴は、複数の会社において監査担当者を兼任できる点にあります。色々な会社で監査を担当する中で、経験や知見を深めてきた非常勤監査役は、生え抜きの監査役では気づきにくい多角的な視点から監査を行うことが期待されます。
業界横断的に積んできた経験や知見を、会社に還元することができれば、非常勤監査役としての責務を十全に果たしていると言えるでしょう。
非常勤監査役の適任者が有する資質とは?
非常勤監査役は、短時間の稼働で必要十分な監査機能を果たすことを求められるため、以下の資質を有することが望ましいと言えます。
監査に関する豊富な経験
当然ながら、監査業務に従事した経験が豊富であればあるほど、非常勤監査役としての適性は高くなります。
- 企業に所属して、法務担当者、コンプライアンス担当者、会計担当者などを務めた経験
- 外部専門家として、リーガルチェック、コンプライアンスチェック、会計監査などを受託した経験
- 他の会社で監査役を務めた経験
上記のような経験を複数有していれば、非常勤監査役として能力を発揮してくれる可能性が高いでしょう。
法令・コンプライアンスに対する理解
非常勤監査役が監査を行うに当たっては、法令・コンプライアンスについて十分に理解していることが前提条件となります。後述するように、弁護士や公認会計士などの専門家は、法令・コンプライアンスに対する理解が深い点で非常勤監査役に向いているケースが多いです。
なお非常勤監査役としての業務のうち、どの領域(法務・コンプライアンス・会計など)を得意としているかは、候補者によって異なります。そのため、できれば複数の監査役を選任したうえで、広い領域をカバーできる人選を行うことが望ましいでしょう。
会社の事業に関する理解
非常勤監査役は、監査役として業務を行う時間が物理的に短いため、会社全体を効率よく理解する必要があります。そのためには会社が行う事業や、会社が属する業界について、あらかじめ深く理解していることが望ましいです。特に類似の事業を営む企業において、法務・コンプライアンス関連の業務に従事した経験があれば、短い時間でも勘所を掴んで監査を行うことができるでしょう。
マルチタスクでの対応能力
非常勤監査役は、複数の会社の役員等を兼任することもよくあります。ひと口に「監査」と言っても、会社によってやるべきことや着眼点は多種多様です。また複数の会社で監査役を兼任している場合、監査の時期が重なるケースも想定されます。
そのため非常勤監査役には、複数の会社の監査業務を同時並行的に行う、マルチタスクでの対応能力が求められます。
兼任数が多すぎないこと
非常勤監査役の兼任はある程度予定されているとはいえ、あまりにも多数の兼任が行われている場合には、それぞれの会社における監査業務が疎かになる可能性があります。そのため、非常勤監査役への就任を依頼する際には、他社で役員等をどの程度の数兼任しているのかを必ず確認しましょう。ご参考までに、東京証券取引所(東証)の上場会社につき、社外取締役・社外監査役の兼任状況を示したデータをご紹介します。
4 ‐ 12.取締役・監査役の兼任状況(補充原則4-11②)
補充原則4-11②は、取締役・監査役は、その役割・責務を適切に果たすために必要となる時間・労力を取締役・監査役の業務に振り向けるべきであり、他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきとし、更にその兼任状況の開示を求めている。取締役・監査役の兼任状況については、従来から「重要な兼職の状況」として事業報告への記載が求められている事項であるため、同原則の実施率は99.9%(2,649社)と高い。また、CG報告書における開示についても、「役員の兼任状況につきましては、株主総会招集ご通知に記載しておりますので、ご参照ください」と、参照方式とする記載が多い。
キーワード分析においても、補充原則4-11②を実施している会社のうち、「株主総会」というキーワードを記載している会社は72.1%(1,910社)、「招集(招集通知・招集ご通知等)」については67.0%(1,776社)であった。また、ウェブサイトのURLを明記している会社も15.3%(405社)であった。
また、兼任状況についての記載において「合理的(合理的範囲等)」に言及している会社は25.2%(668社)であった。兼任数の上限や目安について、具体的な数値を開示している会社は2.8%(74社)あり、その内訳は、当該会社を含む「3社以内」とした会社が11社、「4社」が44社、「5社」が18社、「6社以上」が5社であった。また、兼任については、他社から役員就任の要請があった時点で取締役会に通知を行う旨や、事前に取締役会での承認を必要とする旨を記載している会社もみられた。また、「出席率75%以上を確保する」など、出席率に係る条件を明示している会社もあった。
適切な兼任数の目安は、個々人の能力等にもよるため一概に言えません。しかし3社以上兼任している場合には、きちんと監査業務を行うだけのキャパシティを確保できるかどうか、あらかじめ精査すべきでしょう。
非常勤監査役に就任することが多い専門職
非常勤監査役には、法務・コンプライアンス・会計などに関する専門的な知見を有していることが求められます。そのため、専門職である弁護士や公認会計士は、非常勤監査役としての適正が高い職種と言えるでしょう。
弁護士
弁護士は、主に法務・コンプライアンス領域での経験と知識に長けています。複数の会社の法務顧問を請け負っているケースも多く、業界横断的な知見をもたらすことが期待できるでしょう。また案件を同時並行的に進めることに慣れているため、複数の会社の監査役を兼任していても、それぞれの会社の業務が疎かになるリスクも低いと考えられます。
特に企業法務系の事務所で経験を積んだ弁護士であれば、会社の中で法務・コンプライアンス上の問題が発生しやすいポイントを踏まえて、適切に監査を行う能力を有している可能性が高いです。
【関連記事】社外取締役とは|3つの役割と選任要件、近年弁護士が専任される理由や存在価値まで
公認会計士
公認会計士は、会計監査に関する経験と知識に長けています。特に規模の大きい会社の場合、お金の流れが複雑かつ膨大になりやすいため、会計監査が非常に重要となります。
万全の会計監査を行うには、公認会計士を非常勤監査役に選任しておくと安心でしょう。予算的に、複数の監査役を選任する余裕がある場合には、弁護士と公認会計士を1名ずつ非常勤監査役に加えておくことも有力です。
非常勤監査役の候補者を探す主な方法
非常勤監査役を選任したいものの、適任者をどのように探せばよいかわからないケースもあろうかと思います。自社のニーズに合った人材に巡り合うためには、様々な角度から、専門性を有する人材へアプローチしてみましょう。
非常勤監査役の候補者を探すための主な方法は、以下のとおりです。
弁護士会や公認会計士協会の候補者名簿を利用する
各都道府県弁護士会と日本公認会計士協会は、社外役員候補者の名簿をそれぞれ公開しています。
名簿に登録されている弁護士・公認会計士は、社外役員への就任に意欲的な方々です。経歴等も併せて閲覧することができるので、非常勤監査役としての適任者を探す際の参考になるでしょう。
各弁護士・公認会計士と個別に連絡をとる
非常勤監査役への就任依頼を行う際には、各弁護士・公認会計士と直接連絡をとっても問題ありません。たとえば、予算がかかっても経験や実績を重視したい場合は、大規模~中規模の企業向け事務所の弁護士・公認会計士が主な候補者となります。予算を抑えたい場合には、大規模事務所のOB・OGで、現在は個人で事務所を営んでいる弁護士・公認会計士なども視野に入ってくるでしょう。
予算や求める人物像などに応じて、適任の弁護士・公認会計士がいそうな事務所に目星を付け、直接連絡をとってみるとよいでしょう。
社外役員マッチングサイトを利用する
あっ旋仲介によるきめ細かいマッチングサポートを求める場合には、社外役員マッチングサイトを利用することも一つの選択肢です。社外役員マッチングサイトを利用すれば、様々な経歴を有する弁護士・公認会計士にアプローチできます。単にリストを見て考えるだけでなく、自社に合った非常勤監査役としての適任者について、マッチング会社によるコンサルティングを受けられる点もメリットです。
条件交渉等についても、マッチング会社が間に入って進めてくれるので、スムーズに非常勤監査役の選任を進めることができます。これから非常勤監査役を選任しようと考えている会社は、社外役員マッチングサイトの利用もご検討ください。
まとめ
非常勤監査役は、短い時間で監査役としての役割をフルに果たさなければなりません。そのため、法務・コンプライアンス・会計領域に関して、豊富な知識と経験が要求されます。また、複数の会社の監査役を兼任するケースもあるため、マルチタスクで監査業務に対応する能力も必要です。
弁護士や公認会計士は、非常勤監査役としての適性を備えているケースが多いので、候補者として検討する価値は多いにあるでしょう。可能であれば、弁護士と公認会計士を1名ずつ非常勤監査役に加えておくと、監査については万全を期すことができます。
必要に応じて社外役員マッチングサイトなどを利用しつつ、自社のニーズに応えてくれる資質を持った非常勤監査役を選任してください。