INTRODUCTION
CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略で、日本語では「企業の社会的責任」を意味します。
企業が事業活動を通じて社会や環境に与える影響に責任を持ち、従業員や顧客、取引先、地域社会などに配慮して行動する考え方です。
具体的には、働きやすい職場づくり、公正な取引、製品の安全性の確保、環境負荷の低減などが挙げられます。寄付やボランティア活動も、その取り組みの一部です。
一方で、「SDGsやESGとの違いがわからない」「自社では何から始めればよいのか」と感じる方もいるでしょう。
この記事では、CSRの基本的な意味から関連用語との違い、企業の取り組み事例、実践する際の進め方まで解説します。経営層や管理部門が押さえておきたい推進体制についても紹介します。
CSRとは?企業の社会的責任をわかりやすく解説
CSRを理解するには、企業が「誰に対して」「どのような責任を持つのか」を考えるとわかりやすくなります。特別な活動を始める前に、日々の事業と社会との関わりを見直すことが出発点です。
CSRの意味と、企業が責任を持つ相手
CSRは「シーエスアール」と読みます。企業の利益だけでなく、その活動に関わる人や組織、環境への影響を考慮する点が特徴です。
企業は、従業員が働き、取引先から原材料やサービスを調達し、顧客に商品を提供することで事業を続けています。こうした関係者は「ステークホルダー」と呼ばれ、株主・投資家や地域社会も含まれます。
たとえば、納期を守るために無理な働き方を続けていないか、商品説明に誤解を招く表現がないか、取引条件を一方的に押し付けていないか。こうした問いからも、自社の社会的責任を考えられます。
関係者の要望が一致するとは限りません。だからこそ、何を重視して判断したか、課題にどう対応するかを説明することも大切です。
CSRは寄付やボランティアだけでなく日常の事業活動にも関わる
CSRには、地域清掃や寄付のような社会貢献活動に加え、事業そのものを適切に運営する取り組みも含まれます。
たとえば、顧客情報の管理、従業員の安全確保、製品の品質管理は、日常業務の中で企業の責任を果たす活動です。社会貢献活動を行っていても、事業上の問題への対応が不要になるわけではありません。
コンプライアンスとの関係も押さえておきましょう。法令を守ることは社会的責任の基礎であり、CSRでは、そのうえで社会からの期待や事業の影響にも向き合います。法令違反がないことだけで、すべての課題に対応できたと考えないことが重要です。
CSRとSDGs・ESG・CSV・サステナビリティの違い
関連用語は互いに関係していますが、何に注目する言葉なのかが異なります。実務では、言葉を使い分けることに加え、自社の取り組みがどの課題に対応するのかを説明できることが大切です。
| 用語 | 基本的な意味 | CSRとの関係 |
|---|---|---|
| CSR | 企業の社会的責任 | 企業が事業の影響に責任を持つ考え方です |
| SDGs | 持続可能な開発目標 | CSR活動が貢献できる社会課題や目標を考える手がかりになります |
| ESG | 環境・社会・ガバナンス | 企業の取り組みやリスクを捉える観点として使われます |
| CSV | 共通価値の創造 | 社会課題の解決と経済的価値の創出を両立させる考え方です |
| サステナビリティ | 持続可能性 | CSRと関係する、社会や事業の長期的なあり方を考える視点です |
SDGsとの違い|社会が目指す目標と企業が果たす責任
SDGsは、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。2030年を達成期限とする17のゴールがあり、貧困、教育、働きがい、気候変動など幅広い課題を扱います。
CSRが企業の責任を表すのに対し、SDGsは国や企業、市民などが共有する目標を示します。企業は自社のCSR活動とSDGsの関係を整理することで、どの社会課題に貢献しようとしているのかを伝えやすくなります。
ただし、取り組みに関連する目標のアイコンを付けるだけでは、実際に何が改善したのかはわかりません。対象となる課題、実施内容、結果まで示すことが大切です。
参照:外務省「SDGsとは?」
ESGとの違い|環境・社会・ガバナンスの観点から企業を見る
ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉です。企業の経営や投資判断において、財務情報だけでは捉えにくい課題やリスクを考える際にも使われます。
CSRが「企業としてどのような責任を果たすか」に注目するのに対し、ESGは「どの観点から企業を捉えるか」を整理する言葉と考えると理解しやすいでしょう。投資においてESGの要素を考慮することは、責任投資の重要な要素です。
たとえば、従業員の安全確保はCSRの取り組みであり、ESGでは社会の領域に関わります。同じ活動を異なる視点から説明する場面があるため、必ずしも別々の施策を用意する必要はありません。
参照:PRI「What is responsible investment?」
CSVとの違い|社会課題の解決と経済的価値の両立を目指す
CSVは「Creating Shared Value」の略で、共通価値の創造と訳されます。社会が抱える課題を解決しながら、企業の競争力や経済的価値も高める考え方です。
たとえば、資源の無駄を減らす製品やサービスを開発し、顧客の課題解決と事業の成長につなげる取り組みが考えられます。これは概念を説明するための例であり、収益と社会への効果を実際に確かめる必要があります。
CSRは企業が果たす責任を幅広く扱い、CSVは社会的価値と経済的価値を生み出す事業のつくり方に焦点を当てます。「CSRは利益につながらない」と区切るのは適切ではありません。また、収益機会が見込めなくても対応すべき人権や安全の課題は残ります。
参照:Harvard Business School「Creating Shared Value」
サステナビリティとの違い|持続可能性という視点で捉える
サステナビリティは、持続可能性を意味します。現在の必要を満たしながら、将来の世代が暮らしていくための条件も損なわないという視点が基本です。
CSRは企業が果たす責任に焦点を当て、サステナビリティは社会や環境、事業を長期的に成り立たせるあり方に目を向けます。両者は重なりが大きく、企業がCSRの取り組みをサステナビリティ方針の中で整理することもあります。
部署名や報告書の名称よりも、何を課題とし、誰が責任を持って改善しているかを見ると、取り組みの実態を理解しやすくなります。
企業がCSRに取り組む意義と期待できる効果
CSRの出発点は、自社の事業が社会に与える影響に責任を持つことです。その実践は、関係者との信頼や安定した事業運営にもつながります。ただし、売上増加や採用成果が必ず得られるわけではありません。
CSRが求められる背景|事業の影響が社外や将来にも及ぶ
CSRが求められる背景には、企業活動の影響が自社の敷地や直接雇用する従業員の範囲に収まらないことがあります。海外を含む調達先の労働環境や、販売した製品の使用・廃棄による環境負荷も、事業と切り離して考えることはできません。
人権の分野では、2011年に国連人権理事会が支持した「ビジネスと人権に関する指導原則」が、企業の人権尊重責任を示しています。日本政府も2022年に、責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドラインを策定しました。自社だけでなく、グループ会社やサプライチェーンを通じた負の影響にも目を向ける考え方です。
環境面では、自社の工場で使う電力を減らしても、製品の使用段階に大きな負荷があれば、改善の余地が残ります。どこで影響が生じるかを捉え、設計・調達・販売後の対応まで検討する必要があります。
また、企業の取り組みを確認するのは顧客だけではありません。投資家はESGの観点から企業を評価し、取引先は調達先の人権対応などを確認することがあります。企業規模が小さくても、取引を通じて説明を求められる場合があります。CSRを経営課題として捉えることは、こうした要請に実態と根拠をもって答えるためにも役立ちます。
参照:経済産業省掲載「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」、PRI「What is responsible investment?」。環境負荷の捉え方は、後述の企業事例でも説明します。
事業が社会や環境に与える影響に向き合う
企業活動には、商品や雇用を生み出す側面と、資源の消費や廃棄物などの負荷を生む側面があります。CSRでは、自社の良い面だけでなく、負の影響も把握して対応する姿勢が欠かせません。
まずは、調達から販売、使用、廃棄までの流れをたどり、誰に負担が生じているかを確認しましょう。自社の管理する拠点に問題が見当たらなくても、調達先や販売後の段階に課題があるかもしれません。
顧客・取引先・地域社会との信頼関係を築く
信頼を得るには、方針を掲げるだけでなく、実際の対応を説明できることが重要です。
たとえば、顧客から品質の指摘を受けたときに調査結果と改善策を伝える、取引条件の変更を事前に協議する、事業所周辺から寄せられた意見に回答するといった行動が考えられます。
成果だけでなく課題も共有することで、相手と問題を解決するための対話を進めやすくなります。
従業員が安心して働ける環境を整える
従業員に対する責任を考える際は、安全に働けること、適切に処遇されること、意見や困りごとを伝えられることが基本になります。
制度があっても利用しづらければ、十分に機能しているとはいえません。相談窓口の周知状況、休暇を取りにくい部署の有無、評価への納得感など、運用の実態も確認しましょう。
職場環境の改善は、人材の定着や採用時の信頼にも関わります。効果を把握する際には、従業員の意見や退職理由などを確認し、CSR以外の要因も含めて検討する必要があります。
問題の予防・改善を通じて事業の継続性を高める
事業上の課題を早めに把握し、改善する仕組みは、問題が深刻になる前の対応に役立ちます。
確認項目を増やすだけでなく、問題を見つけた人が報告できる経路と、報告を受けて判断する責任者を決めることが大切です。担当者に解決できない問題を抱え込ませず、必要なときに経営判断につなげましょう。
参照:日本規格協会「ISO 26000を理解する」。上記の確認項目は、実務に落とし込むための例です。
CSRで取り組む分野と判断の基本|ISO 26000を参考に整理
CSRの対象を整理する際には、社会的責任に関する国際的な手引きであるISO 26000が参考になります。企業だけでなく、規模や活動内容の異なる組織にも利用できるもので、認証を取得するための規格ではありません。
参照:ISO「ISO 26000 — Social responsibility」
取り組む対象を整理する「7つの中核主題」
ISO 26000では、社会的責任を考える対象として7つの中核主題を示しています。自社の取り組みに抜けがないかを点検する際に活用できます。
| 中核主題 | 自社で確認する項目の例 |
|---|---|
| 組織統治 | 判断する責任者や、問題の報告先が明確か |
| 人権 | 差別や人権侵害のリスクを把握し、対応しているか |
| 労働慣行 | 労働時間、安全衛生、人材育成に課題がないか |
| 環境 | 資源利用や廃棄物、製品使用時の負荷を把握しているか |
| 公正な事業慣行 | 不正の防止や公正な取引の仕組みがあるか |
| 消費者課題 | 安全性、情報提供、苦情対応が適切か |
| コミュニティへの参画及びコミュニティの発展 | 地域との対話や雇用・教育への関わりを検討しているか |
参照:ISO「Discovering ISO 26000」。右列は編集部による確認項目の例です。
すべての企業が同じ施策に取り組む必要はありません。たとえば製造業なら製品の安全や環境負荷、サービス業なら顧客対応や従業員の働き方など、事業特性に応じて深く確認する課題が変わります。
行動の判断基準となる「7つの原則」
7つの中核主題が「何に取り組むか」を整理するのに対し、7つの原則は「どのような姿勢で判断し、行動するか」を考える基準です。名称と意味を押さえたうえで、日々の意思決定に当てはめると活用しやすくなります。
| 原則 | 意味・考え方 | 実務での行動例 |
|---|---|---|
| 説明責任 | 自社が社会や環境に与えた影響について説明し、問題には是正の責任を持つこと | 製品事故の原因と対応方針を説明し、再発防止策の進捗を報告する |
| 透明性 | 判断や活動に関する情報を、関係者が理解できる形で明らかにすること | 環境データの対象拠点・算定方法・除外範囲を明記する |
| 倫理的な行動 | 誠実さや公平さを重視し、適切に行動すること | 取引先選定時の利益相反を申告し、判断過程を記録する |
| ステークホルダーの利害の尊重 | 影響を受ける人や組織の利害を認識し、考慮すること | 操業時間の変更前に、従業員や近隣住民への影響と意見を確認する |
| 法の支配の尊重 | 自社に適用される法令を把握し、従うこと | 担当者の経験だけに頼らず、法改正を業務手順へ反映する |
| 国際行動規範の尊重 | 国際的に認められた行動規範を尊重すること | 海外の調達先を確認する際、現地法だけでなく国際的な人権・労働の考え方も踏まえる |
| 人権の尊重 | 人権の重要性と普遍性を認識し、尊重すること | 差別やハラスメントの防止に加え、被害を訴える人が利用しやすい相談・救済の仕組みを整える |
参照:日本規格協会「ISO 26000を理解する」。意味は理解を助けるための要約、実務での行動例は編集部による例示です。
たとえば「説明責任」は判断や結果に責任を持って説明すること、「透明性」は判断に必要な情報を見えるようにすることです。情報を大量に公開するだけでは、責任ある対応をしたことにはなりません。また、透明性を確保する際も、個人情報や正当な機密情報への配慮は必要です。
これらの原則は、チェック欄を埋めて終えるためのものではありません。関係者の要望が対立するときも、人権や法令を踏まえ、影響と判断理由を確かめるために用います。すべての要望をそのまま受け入れることと、利害を尊重することは区別して考えましょう。
CSRの具体例|企業の取り組みから実践のヒントを学ぶ
企業事例は、活動名だけでなく「どの課題に、どのような仕組みで対応しているか」に注目すると参考になります。以下では各社の公式情報で確認できる取り組みを紹介し、自社で応用する際の視点を整理します。仕組みの導入と、課題が解消されたことは分けて評価する必要があります。
ファーストリテイリング|調達先の人権・労働環境の改善
衣料品の生産には、縫製工場や素材工場など多くの取引先が関わります。自社の店舗や本社だけでなく、製品をつくる人々の労働環境を把握することが課題になります。
ファーストリテイリングは、生産パートナーに求める行動規範を定め、工場の労働環境を定期的に確認しています。確認結果を工場へ伝え、課題がある場合は改善を求めるとともに、そのための支援を行う仕組みです。
さらに、主要な縫製工場・素材工場の従業員や従業員代表が、匿名かつ現地語で同社に直接相談できるホットラインを設けています。工場には連絡方法の周知と、相談した人への不利益な扱いや報復をしないことを求めています。監査による確認に加え、働く本人の声を受け取る経路を用意している点が特徴です。
参照:ファーストリテイリング「サプライチェーンの人権・労働環境マネジメント」、同「苦情処理メカニズム」
自社への応用では、取引先に方針への同意を求める段階から一歩進み、「実態をどう確認し、問題を誰と改善するか」を決めることが重要です。たとえば、納期や発注変更が調達先に無理を生んでいないかを自社側でも点検できます。評価する際は、調査した社数だけでなく、是正の進捗や相談者が不利益を受けていないかまで確認すると、仕組みの有効性を捉えやすくなります。
ダイキン工業|製品のライフサイクル全体で環境負荷を低減
空調機器では、製造時の環境負荷に加え、顧客が使う段階の電力消費や、冷媒の取り扱いが課題になります。冷媒とは、熱を運んで空気を冷やしたり暖めたりするための物質で、種類によって温暖化への影響が異なります。
ダイキン工業は、使用時の電力消費を抑える取り組みとして、運転能力を調整できるインバータエアコンの普及を進めています。また、冷媒についても回収・再生などの取り組みを紹介しています。省エネ性能を高めることと、冷媒を適切に管理することの両面から環境負荷を考えている事例です。
同社は2023年、冷媒を回収後に再生する場合と破壊処理する場合などを比較したライフサイクルアセスメント(LCA)の分析を公表しています。LCAは、製造・使用・処理などの段階を通じた環境への影響を評価する方法です。環境によいと考えられる施策についても、工程全体で効果を確かめる視点が読み取れます。
参照:ダイキン工業「世界にもっとインバータエアコンを」、同「冷媒を外に出さない」、同「冷媒再生に関するライフサイクルアセスメントを実施」
自社で応用するなら、調達・製造・使用・廃棄のどこに大きな負荷があるかを整理しましょう。たとえば、製造工程の省エネだけでなく、顧客が長く使える設計や修理対応を検討する方法もあります。効果を説明する際は、比較する製品、使用条件、評価対象の範囲をそろえることが必要です。
コマツ|事業の強みを生かした地雷処理・地域復興支援
地雷が残る地域では、人命への危険に加え、道路や農地を安心して利用できないことが生活再建の妨げになります。地雷の除去後も、土地を使い、暮らしを立て直すための支援が必要です。
コマツは、建設機械の技術を生かした対人地雷除去機による支援を行っています。同社が紹介するカンボジアでの取り組みでは、地雷の除去と安全確認を経て、土地を道路や農地として活用し、地域の復興につなげる流れが示されています。社会貢献活動として、地雷処理から復興までを見据えたコミュニティ開発支援を位置付けています。
この事例から学べるのは、自社が持つ技術や人材を、支援先の暮らしの改善まで結び付けて考える姿勢です。自社で社会貢献活動を企画する際も、提供できるものを先に決めるのではなく、相手が抱える課題と、その後の運営・維持に必要な条件を確認しましょう。
成果を見る際には、物品の提供数や参加人数に加え、支援先で実際に使われているか、生活や仕事にどのような変化が生じたかを確かめる方法があります。これは本記事が提案する評価の視点であり、コマツの公表指標を示すものではありません。
CSRを進める際の課題と形骸化を防ぐポイント
CSRを継続するには、取り組みの意義に加え、費用・人員・評価方法まで具体化する必要があります。ここでは、計画や運用で確認したいポイントを紹介します。
取り組みやすさだけで課題を選ばない
CSRの施策を増やしても、事業上の重大な問題が放置されていれば、責任を果たしているとはいえません。たとえば、地域イベントへの協賛を続ける一方で、現場の安全上の懸念に対応していない状態は見直しが必要です。
限られた人員や予算を配分する際には、法令違反や深刻な人権・安全上の問題への対応を優先します。そのうえで、追加の活動を段階的に進めましょう。「できることから始める」という考え方を、対応が難しい課題を後回しにする理由にしないことが大切です。
また、活動費だけでなく、調査、取引先との調整、改善確認にかかる工数も必要です。初年度の実施だけで予算を使い切らず、問題が見つかった後に対応を続けられるかまで確認しましょう。
活動の実施回数だけでなく改善の成果を確認する
活動を行った事実と、課題が改善したことは分けて確認しましょう。次の表は、指標を考えるための例です。
| 取り組み | 実施状況を確認する指標 | 改善を確認する視点 |
|---|---|---|
| 人権・コンプライアンス研修 | 受講状況 | 内容の理解、相談対応や業務手順の改善 |
| 労働環境の改善 | 面談や現場点検の実施状況 | 過重な負担の解消、従業員の声の変化 |
| 環境負荷の低減 | 設備更新や運用見直しの状況 | 使用量や排出量の変化とその理由 |
| 調達先への確認 | 調査の対象範囲や回答状況 | 発見した課題の是正状況 |
たとえば相談件数の減少だけでは、問題が減ったのか、相談しづらくなったのかを判断できません。また、エネルギー使用量は生産量や天候の影響も受けます。数字の増減とあわせて、背景を確認することが重要です。
発信する内容を実際の取り組みや根拠と一致させる
社外に情報を発信する際は、対象範囲、実施時期、測定方法を明確にしましょう。
一部の拠点で実施した施策を全社の成果のように示したり、目標を達成済みの実績のように表現したりすると、読み手に誤解を与えます。成果を伝えるときは、未対応の範囲や残る課題も併記すると実態が伝わります。
環境への配慮を実態以上に見せる発信は、一般に「グリーンウォッシュ」と呼ばれます。たとえば「環境にやさしい」とだけ書くのではなく、どの製品の、どの負荷を、何と比べて減らしたのかを示しましょう。担当部門が根拠を確認し、目標と実績を区別して伝えることが信頼を守ります。
CSRの進め方|経営層が押さえたい実践の手順
CSRを進める際は、課題を把握し、優先順位と体制を決め、結果を見直す流れをつくります。以下は自社で検討する際の実践例です。
自社の事業が社会や環境に与える影響を洗い出す
最初に、事業の流れと関係者を整理します。調達、開発、製造、営業、販売後の対応など、各段階で生じる影響を確認しましょう。
既存の苦情記録、事故報告、従業員アンケート、取引先からの要望は、課題を探す手がかりになります。ただし、記録がないことと問題がないことは同じではありません。声を上げにくい人がいないかにも目を向けます。
洗い出した課題は、「業務の段階」「影響を受ける相手」「起こり得る問題」「現在の対策」「確認できていないこと」に分けて記録すると整理しやすくなります。たとえば外部へ製造を委託しているなら、工場の安全管理だけでなく、自社の急な発注変更が労働時間に及ぼす影響も確認対象にできます。
関係者の声を踏まえて優先課題と方針を決める
課題を洗い出したら、影響を受ける人や部署の意見を聞き、対応の優先順位を決めます。
自社にとっての利益だけで判断せず、被害の深刻さ、影響範囲、対応の緊急性なども確認しましょう。人権侵害や安全上の重大なリスクと、広報効果を期待する施策を同じ基準で比べないことが重要です。
たとえば、広報効果が見込める活動と、少数の人に深刻な被害を与えるおそれのある問題では、見栄えや対象人数だけで優先順位を決めるべきではありません。影響を受ける人にとっての重大さを捉える必要があります。
人権への対応では、負の影響を特定・評価し、防止・軽減策を実施し、その効果を確認して説明する継続的な過程を「人権デュー・ディリジェンス」といいます。一度のアンケート調査で完了するものではありません。自社が侵害を引き起こしたり助長したりした場合には、救済への対応も必要になります。
参照:経済産業省掲載「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」
方針には、優先する課題と判断の考え方を記載します。「人権を大切にする」という理念に加え、調達先で問題が見つかった場合の確認・改善の進め方などを定めると、現場の行動につなげやすくなります。
責任者・担当部門・予算・目標を設定する
次に、誰が実行し、誰が判断するかを決めます。CSR部門が調整役を担う場合も、人事・法務・調達・品質管理などの担当業務と結び付けることが大切です。
計画は、次のように整理できます。表は書き方の例であり、実際の課題や担当に合わせて変更してください。
| 課題 | 施策 | 責任者・担当 | 期限の決め方 | 確認指標 |
|---|---|---|---|---|
| 相談窓口が十分に知られていない | 案内と利用手順を見直す | 人事責任者・窓口担当 | 周知後の確認時期まで設定する | 認知状況、対応の進捗 |
| 調達先の状況を把握できていない | 優先する調査先と項目を決める | 調達責任者・法務担当 | 調査と改善確認の期限を分ける | 調査範囲、是正状況 |
| 使用量の増加理由がわからない | 部門別のデータを確認する | 設備管理責任者・現場担当 | データ確認後に改善期限を決める | 使用量、稼働条件、改善結果 |
目標値は、現状と測定方法を確認してから設定します。計画には上表の項目に加え、必要な予算・工数と、担当者が判断できる範囲を記載しましょう。たとえば調達先の調査なら、回答を集める作業だけでなく、現場確認や改善の支援に使う時間も確保します。
日常業務に組み込み、進捗を経営層に報告する
取り組みを継続するには、既存の業務手順に組み込むことが有効です。新規取引の審査、商品開発時の確認、人事面談、現場点検など、課題に関連する業務との接点を探しましょう。
経営層への報告では、実施した活動に加え、未解決の課題、遅延の理由、必要な予算や判断を伝えます。重大な問題は定例報告を待たずに共有する経路も決めておくと、対応の遅れを防ぎやすくなります。
成果と課題を開示し、取り組みを見直す
一定期間ごとに、目標と実績の差、施策の効果、残っている問題を確認します。目標を達成できなかったときは、活動量の不足だけでなく、原因の見立てや方法が適切だったかも検討しましょう。
たとえば相談窓口を周知しても利用しづらいという声が残るなら、案内を増やすだけでは十分でない可能性があります。受付時間、対応言語、匿名性への不安、相談後の説明などを確認し、方法を見直します。
その結果を、報告書やウェブサイト、取引先への説明など、相手に合った形で伝えます。公表して終わりにせず、寄せられた意見への対応を決め、次の計画や業務手順に反映するところまでを一つのサイクルとしましょう。
CSRを継続するための経営体制と社外役員の役割
CSRの課題には、複数部署の調整や予算配分を必要とするものがあります。担当部門の努力だけに任せず、経営陣による判断と実行を支える体制を整えましょう。
経営陣が方針と資源配分を決め、担当部門が実行する
経営陣は、自社として重視する課題を示し、事業方針や評価制度と矛盾しないようにする役割を担います。担当部門は、その方針を具体的な業務に落とし込み、進捗や問題を報告します。
たとえば、人権への配慮を掲げながら、調達担当者を価格の低さと納期短縮だけで評価していると、現場は相反する要求に直面します。こうした問題は担当者の意識だけでは解決しにくく、経営陣が評価基準や取引方針を整える必要があります。
部門間で意見が分かれた場合に、誰が最終判断をするのかも決めておきましょう。たとえば調達条件の見直しは、コスト、品質、納期、人権への配慮など複数の論点に関わるためです。
取締役会を置く企業では、重要な課題の報告と議論を経営の監督につなげる設計も必要です。なお、東証のコーポレートガバナンス・コードへの対応は上場市場により異なり、すべての企業に同じ要件が適用されるわけではありません。
関連記事:エグゼクティブとは?意味・役職・管理職との違いをわかりやすく解説
社外取締役の助言・監督を課題の見落とし防止に役立てる
社外取締役には、業務執行から独立した客観的な立場で経営を監督する役割が期待されます。CSRに関しても、経営陣の判断や報告内容について、社内だけでは気付きにくい論点を問い直すことが考えられます。
監督に当たっては、「優先課題の選び方に偏りがないか」「現場の懸念が経営陣に伝わっているか」「未達の目標を放置していないか」といった点を確認できます。判断材料として、集計した成果だけでなく、重大な問題、関係者の意見、是正の進捗が報告されることも重要です。これらは監督の場面で検討する質問と情報の例です。
一方、監査役は、原則として取締役の職務執行を監査する立場です。社外取締役と同じ役割ではなく、会社の機関設計や監査範囲にも留意する必要があります。いずれもCSRの担当部門に代わって日常業務を実行する人材として捉えないことが大切です。
参照:経済産業省「社外取締役の在り方に関する実務指針」、日本監査役協会「監査役の職責」
関連記事:社外取締役とは?経営における役割とキーマンとしての注目背景・報酬体系も解説
経営体制の強化に向けて、社外役員の選任を検討している方へ
CSRに関わる課題を整理する中で、経営の監督や法務・会計などの知見を補う必要が見えてくることもあります。社外役員を選ぶ際は、自社の課題と候補者に期待する役割を明確にしておきましょう。
EXEは、社外取締役・監査役と企業をつなぐマッチングサービスです。社外役員の選任を検討している方は、サービス資料で支援内容をご確認ください。
参照:EXE公式サイト
CSRに関するよくある質問
CSRは中小企業にも関係がありますか?
はい。従業員の働き方、取引の公正さ、地域や環境への影響は、企業の規模にかかわらず関係します。大企業と同じ活動をそろえる必要はありません。自社の事業と関係が深い課題を把握し、重大な問題への対応を優先しながら、継続できる体制を整えましょう。
CSRに取り組むことは法律上の義務ですか?
CSRには、法令を守る取り組みと、法令の要求を超えて自主的に進める取り組みが含まれます。CSRという名称の活動を行うかどうかにかかわらず、自社に適用される法令は守る必要があります。また、情報開示などの要件は企業の属性や適用制度によって異なるため、個別に確認してください。
CSR専任の部署がなくても始められますか?
はい。まずは経営陣の責任者と社内の調整担当を決め、人事・法務・調達などの既存部門で役割を分担する方法があります。担当者に仕事を追加するだけでなく、使える時間、判断できる範囲、経営層への報告先も決めておきましょう。
CSR報告書には何を書けばよいですか?
自主的なCSR報告書では、基本方針、重視する課題、推進体制、目標、実施内容、結果、残る課題を整理すると伝わりやすくなります。対象期間と対象範囲、指標の測定方法も明記しましょう。法令や上場制度などに基づく開示が必要な場合は、その要件を別途満たす必要があります。
参照:ISO「ISO 26000 — Social responsibility」、日本規格協会「ISO 26000を理解する」、日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード」。体制・報告書の具体的な整理方法は実践上の提案です。
まとめ|CSRの意味を理解し、自社の事業に即した取り組みを始めよう
CSRとは、企業が社会や環境に与える影響に責任を持ち、関係者に配慮して事業を行う考え方です。人権、働き方、公正な取引、製品の安全、環境など、日常の業務にも深く関わります。
まずは、すでに行っている取り組みと未対応の課題を洗い出してみましょう。そのうえで、影響の大きさや緊急性を踏まえて優先順位を決め、責任者と次の行動を明確にすることが大切です。
経営陣が方針を示し、担当部門が実行し、その結果を点検して改善する。この流れを事業の中に組み込むことが、CSRを継続するための土台になります。